33キリギリスの誓い

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R表現があります。
苦手なヒトは、こちらでUターンを(AnnaMaria)

 

 

鍋の具をあらかた食べてしまうと「シメ」にうどんを入れ、
味噌煮込みうどんにした。

美鈴は海のない上州、うどんの産地育ちであるが、
味噌煮込みはあまり食べたことがない。
田山も同じらしかったが、濃い色に染まったうどんは、
見た目よりもしつこくなく、鍋のうまみを吸って、この上なくおいしい。


「これも『吉池』の人の伝授?」

「そうです。
 僕は名古屋に出張に行った際、味噌煮込みを食べましたが、
 こんなにおいしかったかな。」


『吉池』とは、上野御徒町駅前の食品デパートで、
中でも鮮魚売り場が有名である。
一度だけ「ひやかし」に訪れ、その量と種類の多さに圧倒されてしまったが、
ひとり暮らしの美鈴には、アメ横同様、買い切れない場所である。


「真さんは『吉池』でよく買い物をするのですか?」

「まさか。あそこで何をどう買えばいいのか、お手上げですよ。
 つねよおばさんは魚料理が得意で、煮魚や塩辛なんかも自分で作るそうです。
 僕は、作ってもらってばかりで・・・」


つねよおばさんと言うと、ほうきを構えた細長い魔女タイプで、
元大家さんと言っていたような・・・。

はっ!噂をすると現れるって言うじゃない!


美鈴が思わず、玄関のあたりをふり返ると、真が笑いをふくんだ声で


「また、邪魔されるかと心配ですか?」

「いえ、まさか、そんな・・・。ほほほ」


美鈴が笑いにごまかそうとすると、真は晴れやかな声で笑い、


「僕は心配だな。
 だから、今日の手伝いはいいと、あらかじめ連絡しておきました。
 安心して、ゆっくりしていて下さい。」

「安心してなんて、そんな・・悪いじゃないですか。
 常に真さんを気にかけてくれているおばさんたちなのに」


美鈴の空々しい言葉に、田山はなおも笑うだけで返事をしない。
いつのまにか、うどんも空になり、ぽかぽかと体中が温かくなった。


「僕が片づけますから、美鈴さんは座っていてください。」

「いえ。わたしが洗いますから、真さんが食器を拭いて、
 片付けてください。
 わたしでは、しまう場所がわかりませんから。」


美鈴が立ち上がって、再びエプロンを取ると、
真がにっこり微笑んでうなずき


「では、一緒にやりましょう。」

 


美鈴が食器を洗ってすすぎ、洗いかごに置くと、
田山が取って拭き、食器棚にしまっていく。

この家には、懐かしい味わいのせとものが多く、
茶碗も小皿もふぞろいで、いろんな意匠をしており、
いわゆる「モダン」な、つるっとした皿は一枚もなかった。

 
「なつかしい。おばあちゃんの家でよく見たようなお茶碗だわ。」

「どれも古めかしいでしょう。
 母がいた頃から使っていたものへ、適当に買い足しただけですから。」


田山は美鈴の手元をじっと見ていて、洗いかごに置くなりすぐに
取り上げて素早く拭きあげる。
かごの中で何度もふたりの指が触れ合った。


あ!ごめんなさい。


鍋の後片づけなので、さほど洗う食器が多いわけでもない。
美鈴はこの後に待ち受けるものが不安で、
今の時間を長引かせたいばかりに、
不必要に鍋の底をこすったり、流しの内側を磨いたりした。

真は流しと棚を行き来して、食器を片づけていたが、
美鈴が水道の蛇口まで磨き始めたのを見て、そっと両肩に手を置いた。


「美鈴さん、もういいですよ。」

あ、はい。


使ったスポンジをすすぎ、手を洗って拭く間も、
田山の手は肩から離れず、耳元に息遣いまで感じた気がして、
美鈴はいつまでも冷たい水で、じゃあじゃあと手を洗い続けた。


「!」


耳に温かいものが触れたようで、飛び上がりそうになり、
盛大に水を跳ねさせてしまった。
しずくが田山にもかかったに違いない。


「ごめんなさい!」
「なにが?」「だって、濡れちゃったでしょ?」


もういちど、今度は間違いなく、美鈴の耳にやわらかな感触があたる。
背中がぴんと凍りつき、濡れた手は宙に浮いたままだ。


「みすずさん・・」
「はい!」
「手を拭いたほうがいいんじゃない?」

あ、はい!


その言葉で呪縛が解けた美鈴は、かかっていたタオルで手を拭き、
ほうっと息をついて流しを離れようとしたところで、腕の中に抱き取られた。

そろそろ、と誘うように指がのど元をつたい上がってくると、
陶然として目を閉じる。
いっしゅん唇に温かい息がかかり、
すぐにもっと温かい感触がじかに押し付けられ、ゆっくり唇の上を動く。

2度、3度唇が重なるごとにお互いの腕がしっかりと体に回され、
甘い息を感じながら、もっと深く感じたくてさらに唇を重ねる。

頭がじいんとしびれ、酔ったような心地でようやく目を開くと、
すぐそばの瞳が金色に輝いて、美鈴を縛った。


「あなたが好きだ」


わたしも・・・と答えようとしたが、声が出ない。


「ずっと一緒にいたい」


わたしも・・・と、今度は声を出すのをあきらめて、目で告げた。


「僕のそばにいてほしい。
 ぼくの片割れで、妻で、恋人として。ぼくの・・・」


田山の目がいっそう輝きを帯び、吸い込まれそうだ。


「家族になってほしい。」


田山の両手が、美鈴の両頬をそっとはさんでいる。


いいかな?


美鈴はこっくり、うなずいた。


「こんな目をしていても?」


美鈴は少し微笑んでうなずいた。


「外の離れで、あなたの苦手な生き物を育てていても?」


その言葉を聞いた美鈴が目をくるっと回して、
う~んと考えるように顔を傾け始めると、
奪い取るように、ぎゅっと抱きすくめられた。


「ダメだ、ダメだ!ぜったい離したくない!
 これ以上の質問はやめる。
 あなたの気が変わらないうちに、明日にでも結婚してしまいたい。」


あした?


びっくりしたように、美鈴が目を丸くすると、


「だめ?僕は本気だけど。」


またしても考えるような表情になった美鈴を包んで、
きつく締め上げた。


「あなたとこれ以上、離れて暮らしたくない。」


ま、まことさん。


困惑するような美鈴の声に、田山はやっと腕の力をゆるめた。


「わかってる。
 僕は無理を言っているね。
 じゃあ、あなたと一緒に暮らすために、何をすればいいかな?
 指輪を買う?ご両親にあいさつに行く?」


そうね・・。


美鈴はしばらく会ってない、田舎の両親の顔を思い出した。


結婚するって言ったら、ふたりともびっくりするかな。


美鈴の気がそれたのを感じた田山は、あごを捕まえて、
ぐいっと自分のほうを向かせ、


「手順はあとでちゃんと考える。
 今は、あなた本人と約束を交わしたい。」

やくそく?


そう言われてちょっと考えると、美鈴は小指を立てた。


「じゃあ、指切りしましょっか?」


ちょっと照れたような顔つきで言い出した美鈴をながめ、
田山がほどけるような笑顔を見せて、
こちらも長い小指をかざした。


「しましょう、しましょう。いいですか?

 美鈴さんは、僕のお嫁さんになると指切りげんまん、
 嘘ついたら・・・」


無邪気に指をからめて、笑いながらお互いの手を振っていた美鈴だが、
不意に田山の目の色が変わり、表情が緊張したのを見て、
さっと鳥肌が立った。

真ん丸の月のように光る眼を向けると、


「あなたをどこまでも追いかけるよ。
 僕の巣穴に連れ戻すまで。」


いつもより低く、地を這うような声音でささやいて


切った!

と小指を切り離し、


「約束成立。
 僕と約束したら破れない。いいね。」


勝ち誇ったような田山の顔を見ると、美鈴は少し不安になった。


「ええと、あの、それは・・・
 婚約破棄とかを認めないってこと?」

「婚約破棄!
 たった今、約束をしたのに、そんな不吉な言葉は口にしてはいけない。
 あなたは僕と、かならず結婚するね?」
 

甘い結婚の約束にしては、やや強い言葉つきだったが、
美鈴はうなずいた。
田山といっしょに生きていくのは、自分の望みでもあるのだから。


「はい。あなたのお嫁さんになりたいです。」


田山が破願して、とろけるように甘い微笑みを見せると、
ゆっくり美鈴を引き寄せて、耳元でささやいた。


「では、少し早いけど、寝室に連れていってもいいかな。」

え?


でもまだ、お風呂にも入っていないし、
ワールドニュースもWBSもチェックして・・・。


田山は美鈴を床から抱き上げると、片手で明かりを落とし、
扉をけり開けて廊下へ連れ出した。


「人生の一大事なんだ。
 これ以上、一分も待てない。」

 

 


扉の内側に押し込まれ、背中でかちりと扉が閉まると
大きな手がなでるように美鈴のからだを走った。

この指は、ずば抜けて器用なのか、
美鈴のブラウスがあっと言う間に開かれ、
スカートもブラもさらさらと音を立てて床に落ちて行く。


あっ!

動かないで・・・ぜんぶ見せてほしい。


田山の指がじかに肩先にふれると、びりっと電気が走ったように感じ、
思わず体をふるわせたが、てのひらが
腕の外側をそろそろと這い降りてくる。


きれいな、きれいな胸だ。
しろくてなめらかで、たまらなくいい匂いがして・・・

そして、僕のものだ。


宣言をするようにつぶやくと、顔を伏せて胸の先をふくむ。

美鈴のからだにまたも、さざ波が走ったが、
田山の両手がしっかり美鈴の両腕をおさえていて、動けない。

胸を吸われ、なめられ、舌先でぐるぐるとふくまれ、
ときおり、きゅっと強く吸われる。


ま、まことさん・・・


強烈な快感とほんの少しの怖さを感じながら、
美鈴は恋人の名を呼んだ。

田山は答えてくれなかったが、安心させるように美鈴の腕を
そうっと何度もなで、一方で美鈴の胸をぎゅっとつかむ。


ん!


田山の顔は美鈴の胸に伏せられたまま、じりじりと動き続けている。
胸もとに田山の髪が触れ、顔を動かすたびに
さわさわと刺激するのがたまらない。
背中が知らず知らず、弓なりに反る。

つつっと器用な指が背中の真ん中を走ると、
ざあっと血液が体中を駆けめぐるのがわかった。


あなたが僕のかたちと、重さと、熱とを覚え込むまで。
僕の汗とにおいがあなたのと混じるまで。

あなたと僕は一体だ。
僕のよろこびと痛みを感じて欲しい。
僕の聞く音を聞いて、目に映るものを共に見て欲しい。


ささやく言葉は、呪文のように肌に刻み込まれていく。
熱い息とともに、美鈴の体を徐々に下がって行き、
感じる中心をざらりと舐めると、美鈴のからだがひゅん、と浮き上がる。


あ、まことさ・・


体内にある風船がじりじりじりとふくらんで、
今にも爆発しそうになったとき、美鈴が大きく叫んだ。


ああっ!あああああ・・・

まだまだ、もっともっと。


目の前にいる生き物が、獰猛な視線で美鈴を縛り、駆り立てる。
金の目は大きく見開かれて、顎をかたくかみしめ、
いやおうなく美鈴を組み伏せた。

一瞬、美鈴の脳裏へ、
白いシーツにころがる自分の肢体が映った気がしたが、
その後入ってきた大きな質量に圧倒され、
そんな映像もすぐ砕け散った。

自分を侵す、強く堅い肉体は
片手でいとも簡単に美鈴の自由を奪うと、
強いリズムで攻めてくる。

抗うことも、逃げることもできず、
強く望まれるまま、身体を投げ出すしかなかった。


これが、あの真なのだろうか?


斜めに体を開かれながら、ふと目を閉じて、
一瞬、いつもの優しく穏やかな笑顔を思い浮かべたが、
目を開けると、その同じ顔が強い欲望をみなぎらせ、
無言で容赦なく、自分にのしかかってくる。

性急で飢えているような、
どうしても相手を食べつくさずにおれないような、
野蛮ともいえる表情。

打ちつけられる体に、こすられる肌の表に、つかまれる手首の力に、
強い欲求を感じずにはいられない。
ひたすら自分を求め続ける熱い体に流されながら、美鈴も理解した。


これも真なのだ。
むしろ、これこそが真なのかもしれない。


野蛮で制御不能な欲望をどうにか受けとめて、
原始的なよろこびを共に叫びながら、
美鈴も、自分がこの動物のメスになったことを理解した。

 

 

繭(まゆ)だ。
温かいまゆ。

ぐったりして、手を動かすのさえおっくうなほど体が重いのに
こんな安らかな場所があるとは信じられない。

身体の向きを変え、しっかり自分を包んでいる男の肩に頬をすり寄せると、
反射的に腰にまわされていた腕がぎゅっと縮まり、
さらに抱き寄せられた。

さっきまでとは違う、おだやかな寝顔がほんの1センチ先にある。
まつ毛が長くて、鼻筋がとおって、唇がふっくらとかすかに開いて。

目の下にすこし隈があることをのぞけば、やすらかな表情に見えた。


こんな気持ちよさそうに眠ってる。


美鈴は自分の男の無防備なようすに微笑んで、少し首を伸ばすと、
かすめるように鼻先にキスをした。


ずっと不安だったんだね。
それとも、ひとりで寂しかったのかな。


いつも美鈴の心を読むような瞳も、今は閉じられて休んでいる。


安心して。
わたしはあなたのそばにいるよ。

おかあさんやおとうさん、おばあさんなんかの
家族ぜんぶの代わりに、わたしがなってあげる。

家族になってって、そういうことだよね?


あどけないような寝顔にひとり、心の中で話しかけると、
もうちょっと体を寄せ、深く胸の中に入り込み、
温かさにほうっとため息をついて、ふたたび目をとじた。

 

 

6 Comments

  1. きゃ!今夜も情熱的な田山さん♪
    そして、こんなに順調でいいのか?!
    順調すぎて、この後が怖い?!
    それにしても、今夜も鍋が美味しそうだあ~*^^*
    この味噌煮込みうどんが食べたい。。
    今食べたトマト鍋はなしにしてしまいたいれいもんでした~(笑)

  2. >家族になってほしい
    はいーーーーー!!!!撃沈ブクブクブク、、、、、
    ああ、しばらく浮かび上がれない予感…

  3. 思えば出逢ったときから真さんは美鈴ちゃんに
    一目ぼれだったような・・・
    ずっと待って、ずっと求めていたのですね~
    いくらご親切な下町シスターズがいても
    父親には会えず母は亡くなってしまい兄弟もいなくて
    自分は一人ぼっちだ・・って思ったら、
    健全なオノコなら自分を理解してくれる半身が欲しいものね。
    一旦掴まえたら絶対放さない、、さすがヤン夫人の飼い主!
    しか~し、てっきり草食系だと思っていたらとんでもない、
    すんごい肉食男子でした!  それもまた素敵^^
    田山さん、大好きだからせめて近場の囲いの中は
    足4本までにしておいてくだされ~~

  4. 真さん、よかったね。
    でも愛情がすごすぎて・・・・ちょっと怖い。
    巣穴に連れ戻すってぞーっとしてしまいました。
    もし、万一、だめになってもらいたくないけど、だめになったら、
    この世に存在する全てのの木々や虫たちから恨まれますよね。
    そんな人生いやだなぁ~。
    美鈴さん、とんでもない人に見初められましたね。
    気持ちが悪い真さんが大好きです。
    だけど虫は大嫌いです。
    お願いですから、虫の世話だけは美鈴さんにはさせないであげて!

  5. キャ~~野獣!!!の真さんエエです^^
    私は虫使いは美鈴ちゃんのほうだと思ってるの。
    ピンチの時に助けに来てくれてるじゃない?
    今までだってきっと何回もあったはずよ^^
    美鈴ちゃんは野獣の雌に目覚めたのね~
    真さんの全部を受け入れる覚悟が、もう出来てるのかもね
    カッコいい美鈴ちゃん^^
    真さんよかったね~♥♥(o→ܫ←o)♫ღ

  6. 遅くなっちゃった・・(#^.^#)
    なんだか田山さん、駄々っ子みたいですね^^
    「ダメだ、ダメだ!ぜったい離したくない!
     これ以上の質問はやめる。
     あなたの気が変わらないうちに、明日にでも結婚してしまいたい。」
    このセリフ、萌え~~♡♡です^^
    知的で優雅で端正な顔立ちで・・・
    なのに性急に、こんなこと言われちゃったら・・・ふふふ(*´∀`*)
    ドキドキして、なかなか流しの前から離れられない美鈴さんが
    超かわゆいです^m^

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