49キリギリスの誓い


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ほんのちょっとR表現があります。
苦手な方はここでUターンを! (AnnaMaria)

 

 

二人きりの闇は濃い。
外の光や音を一切絶った寝室は窓のない箱のようで、
この部屋だけ切り離されて、夜の中に漂っていきそうだ。

真はおだやかに優しくなった。

もちろん、寝室の外ではいつも優しかったが
ひとたびこの部屋に入ると金の瞳をきらめかせ、
獰猛で性急で、果てしなく美鈴を奪うこともあったから。

だが今夜の真は落ち着いていた。
いつもどおり美鈴を先に寝室に入れると、
かちゃり、ドアを閉める。


「みすず」


呼ばれて上を向いた唇にそっと、やわらかな感触が重なる。
それと同時に美鈴のからだ全体が温かく、たのもしく包まれて
キスが深くなるにつれ、美鈴をつかむ腕の力が強くなる。


何てしあわせなんだろう・・・


唇が離れると真が微笑んだ。
おだやかな優しい笑顔に、美鈴も釣り込まれて微笑み返す。


「もう・・・ずっとここに居るんだね?」


問う瞳の光の中に、ほんの少し不安が揺れて切なくなる。


「ええ、いるわ」

はあ・・・


真がため息をつくと、今度はしっかりと美鈴を抱きしめ、
髪にほおずりをする。


「どこにも行かないで。
 ずっとそばにいてくれるんだね?」


温かく堅い胸に頬をつけながらうなずくと、
腕の中から顔を見上げる。


「どこにも行かない。行きたくない。
 ずうっとあなたのそばにいたいの。」


真の貌はなかば影にかくれて、読みにくかったけれど、
こちらをじっと見つめているのは感じられた。

ふいにふわり、空気がゆるむとゆっくり唇が下りてくる。

優しいキスから求めるキスへ。
求めるキスから貪るキスへ。

お互いをあおりながら、肩、胸、そして腰、足の先まではいでいく。
唇があごからのどへ降りていくのを肌に押された熱で知りながら、
ついに胸をふくまれると、きゅんと体が反った。


あ・・・!


両手首をつかまれて、あおむけに倒されると、
たちまち熱い体がのしかかってくる。


「みすず」


ほおを撫でる手は優しいのに、すりつけてくる体は堅く重い。
じかに肌が重なり合うと、
どうしてこんなにも強烈な反応が生まれるのか。

瞳を合わせると金縛りにあったように動けなくなるので、
目をとじたまま、相手の体の熱と匂い、息遣いを味わう。

ぎりぎりと腕がしまり、身動きできないほど締め上げられ、
やわらかな胸がつぶされるのがわかる。


「みすず」


呼びかけられたのはわかるけど、もう声が出ない。
美鈴は半目を開けて、真の顔を見上げた。

怖いほどまっすぐに下ろされる熱い視線を受けとめると、
膝が大きく開かれ、真が押し入ってきた。
瞬間、あらわな自分のイメージがはっとフラッシュする。
突如、鏡が現れたような感覚。

真の目に映った姿なんだろうか。

視覚イメージだけでなく、ときおり、匂いや、
中に滑り込んでいく感触までもが流れ込んできて、
感じる情報が倍になり、いっそう興奮をあおる。


「シンクロしてる・・」


うなじをなであげられ、ぞくっとふるえる。
言われた意味がよくわからなかったが、


「そう・・なの?」


美鈴の上で真がほほえんだように見えた。


「僕の見た美鈴が見えただろ?」

「え?・・・あ!あ!あ!」


中から強く揺さぶられて、途中から何も考えられなくなった。
美鈴の脚が高くあげられ、強く突きこまれる。
きゃあっと悲鳴が出ると、動きの激しさが加速して行った。
そのまま、ずんずん追いつめられる。

 


最初の嵐が過ぎるまで、貪るように美鈴を抱いたが、
力の抜けた美鈴を抱き寄せてなで始める頃には、
真の瞳も鼓動もおだやかに鎮まっていた。


そ・・と。

「え?」


美鈴の白い肩から顔を上げて、真が美鈴の唇に耳を寄せた。


「そとは、月がでてるのかなって」


半ばとろけたような顔で、美鈴が壁越しに見えない庭に目をやる。


どうかな。


真はあご先を美鈴の頭のてっぺんにのせ、
ゆっくりとすり付けた。


「いつもしごとの準備に追われて、気が付くと真夜中になっちゃってる。
 そうだ、って、窓を開けるとぽっかり月が浮かんでて、
 わたしを見下ろしているの。」


美鈴が思い出して微笑むと、真もいっしょに頬をゆるめた。


「こんな夜中に見守ってくれてるのは、お月さまだけだなあって、
 いつも、ありがとうございますって言っていたの。」


真はだまって美鈴の髪をなでている。


「そうすると不思議に、眠ってからも外のお月さまを感じられたのに、
 ここだと、お月さまが遠い気がする・・・。」

「雨戸の向こうには庭があって、いつも通り月が上っているよ。」


真は胸の中へ、美鈴をしっかりとしまい直した。

古い家なので、玄関や廊下は冷え込むことがあるが、
この寝室は雨戸、ガラス窓、障子と三重に守られ、
熱も音も外界から遮断されている。


「ちょっと外へ出てみる?寒いかもしれないけど・・・」

ううん・・・いい。


美鈴は真の顔を見上げた。
穏やかな顔をしている。
気を悪くしてはいないようだ。


「ここの寝室の窓は開けられないんだ。
 こうしないと眠れない。
 この部屋のどんなことも漏らしたくないし、
 外の気配も入れたくないから・・。
 ごめん。」


かすめるように口づけた。


「ううん、いいの。
 わたしだって、しっかりカーテン閉めて寝てたんだもの。」


美鈴はいぜん、ここの仏間でひとり目覚め、外に出て行ったところ、
離れで恐ろしい目にあったことを思い出した。

真が夜、抜け出している様子はない。
生き物たちの見回りに行かなくてもいいのだろうか。


「離れを見回らなくていいの?」


美鈴がそっと訊くと、真はうすく微笑んだ。


「大丈夫。
 昼間、ちゃんと見てくれている人がいるし、
 もう冬だから、眠っているものが多い。」

どこにも行かないよ。


こめかみにそっと唇が押し当てられた。
美鈴も真にすり寄ると、首筋にキスをする。


くすぐったそうに真が首を縮めると、
ベッドの中でぎゅっと抱き寄せられた。


「もう一度入りたい。」


美鈴は返事をしなかったが、伸びてきた手にまさぐられ、
小さく声をあげるとくるっとうつ伏せに返される。

腰をつかまれて、後ろからぐっと熱い質量を押し込まれると、
美鈴は猫のように反った。

 

 

 

「今日の予定は?」


お味噌汁の椀を取り上げながら、真が訊いた。


「午前中はビジネス通訳が一本で、あとは夜の表彰式までブランク。
 その間にいろいろ準備ができるかもしれないから助かるわ。」

ふうん。


珍しくそっけない反応に、美鈴は真の顔を見た。


「真さんは?」

「僕は大学に詰めきりだ。
 ひょっとすると遅くなるかもしれない。」


と言うことは、二人とも夜遅いってことね。
今夜、いっしょに晩ごはんを食べるのは無理そう。


やや寝不足気味でむくんだ顔の自分とちがって、
朝の真はすっきりと端正だ。

大学の先生にはとても見えないわ。


「じゃ、何に見える?」


心のつぶやきを聞かれて焦ったものの、
あらためて目の前のパートナーを見つめた。


「う~ん、これから撮影の俳優さん。」


結論づけた言葉に、意外そうに顔をあげて苦笑すると


「俳優?いやだな。だったら監督の方がいい。」

「虫の映画監督とか?」


すかさず返した美鈴の反応に、いたずらっぽい笑顔をよこした。


「言うことを聞かなそうな俳優ばかりだね。」

「そうかしら?真さんなら言うことを聞かせられると思うけど」

どうかな。それより・・。


テーブルの向かいから、柔らかく美鈴の手首をつかんだ。


「僕の父に会ったら、ちゃんと籍を入れて、お披露目をしよう。
 おばさんたちからも、早くけじめをつけろとせかされているし・・・。
 帰ったら相談したい。」

「はい。」


素直な美鈴の返事に、真のほおがゆるみ、
美鈴の手首を離すとそのまま髪をなでた。


「僕はもう、本当に満足なんだけどね。」
「・・・・」


優しい笑顔に、朝からぽうっとのぼせそうになる。
結婚しても自分の夫に見とれるとかって、まずいことになりそうだわ。

ゆるみがちの頬をなんとか引き締めて、
朝ごはんの続きに取り掛かった。

 

 

 

5 Comments

  1. 待ってたよ♪
    いきなり「ふたりきりの濃い闇」だったので、
    なんでだっけ?って思って復習しに行ってきました。
    あぁ、そうだったんだよねって(*^m^*)
    いよいよほんとにしっかり、一緒に生きていく2人になりましたね。
    でも、こんなふうに心を読んだりシンクロしたりするなら
    美鈴みたいに無垢で純な人じゃなきゃダメってことだなと、納得しました。
    この幸せに、これから先なにかある?
    もうせっかくここまで来たんだから、まこっちゃんにやっと訪れた幸福をそっと見守ていたいんだけどなぁ~~。

  2. >待ってたよ♪
    ありがとう、忘れないでいてくれて。
    >なんでだっけ?って思って復習しに行ってきました。
    きゃはは、やっぱり忘れちゃうよね!
    間があいちゃってすみません。
    ばたばたばたばたしてるので、何度か書いてる途中で眠くなっちゃって
    翌日見ると「??」のかけらばっか増える、ひどいす。
    >こんなふうに心を読んだりシンクロしたりするなら
    美鈴みたいに無垢で純な人じゃなきゃダメってことだなと、納得しました
    そおですねえ。
    いつも自在に読めるわけじゃなく、
    何かの拍子に聞こえちゃったり、見えたりするみたいです。
    望むと望まないにかかわらず、ぱぱっと現れる。
    隠し事があると困りますね。
    >まこっちゃんにやっと訪れた幸福をそっと見守ていたいんだけどなぁ~~。
    「誰かと生きる」ことを半ばあきらめてましたからね。
    ふふふ。とにかく、さぼらずに書きますぅ~~。

  3. >真はおだやかに優しくなった。
    美鈴が自分から離れないってわかって、安心したんだろうね。
    思えばまこっちゃんのイメージも随分かわりました。
    こ~んな人がいるの!っていう、素敵な学者さん→不思議くん
    そして今は、心にくったくをもっている青年ですかね。
    でも、美鈴を得て、安定したようで良かった。
    ところで、寝室、三重窓なんですか。プライバシー守るのも一苦労ですね。
    でも、こんな時までシンクロしちゃったら。。。
    美鈴さん、男性の感覚がわかるなんて、あなたは希有な女性です。
    >>ふふふ。とにかく、さぼらずに書きますぅ~~。
    あんなさん、続きアップしに来てくれて嬉しい。
    で、しっかりと聞きましたよ!よろしくです!!

  4. Annaさん、お待ちしておりました~!
    と言いながら、レスが遅くてすみません^^;
    あ~真ちゃん、幸せなんですね~~
    スキのない完璧大学教授だったはずなのに
    美鈴さんに出会ってから、忘れていた1人で暮らす寂しさを
    ずーーーんと身にしみちゃったみたい・・・
    一度抱きしめたらもう離せないくらい恋しちゃったんですね!
    うんうん、いいわ~~
    前回は「娘を宜しく」の母の気持ちだったんだけれど、
    今回は「この息子は心に寂しさを抱えているので、どうぞ支えてやって!」と実の息子にシンクロしてしまいますよ^^;
    ちょっとばかし不思議ちゃんですが、2人の幸せ新婚生活を
    アンナさん、宜しくお願いします。

  5. ★たんたんたますちゃん、レスありらと~~!
    >思えばまこっちゃんのイメージも随分かわりました。
    素敵な学者さん→不思議くん
    そして今は、心にくったくをもっている青年
    ご理解ありがとう。
    絵に描いたような満点男って、本当はいないと思います。
    み~んなそれぞれ悩みと不安と屈託を抱えている。
    できすぎ君にも悩みはきっとある(笑)
    >寝室、三重窓なんですか。プライバシー守るのも一苦労ですね。
    物理的に厚くしてるというか、日本家屋にはかつて雨戸が常識。
    で、ガラス戸にカーテンの代わりに障子嵌めたのがこの寝室。
    断熱、断音効果に優れていると思います。
    開けるのが面倒くさいけど・・・。
    >美鈴さん、男性の感覚がわかるなんて、あなたは希有な女性です。
    ははは、わかるっていうか、時々流れてきちゃう。
    変な感じでしょうねえ(笑)
    ★hiroさん、もう遅くなって本当にすみません。
    眠気に勝てなくなりました。
    根性がないなあ・・・。
    >スキのない完璧大学教授だったはずなのに
    ふふふ、生まれてからずっと「優等生」
    何しろ「異能」があるので、より頑張っちゃう。
    彼の場合、「愛して」もらうには「理解」してもらわなきゃならないけど、
    「理解」した後、「愛して」もらえるか全然自信なかった。
    前回は「娘の母」で今回は「息子の母」ですか(笑)
    れっきとした大人の男ですが、「さびしい少年」が見えちゃいます。
    いやあ、とびとびの話に付き合ってくださって、
    ありがとうございます。

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