54キリギリスの誓い「クリスマス版」後編


kirigirisu_title.jpg

ほんのちょっぴりR表現があります。苦手な方はこちらでUターン(AnnaMaria)

 

 

温かくておいしい料理をお腹いっぱい頂いたのに、
その後から、銀のお皿に色とりどりのお菓子が出てきて、
紅茶と一緒にいただくと、これがまたどれも絶品。


「この白くて赤いジャムの挟んであるお菓子、おいしいですね。
 初めて頂きました。」


真っ白な砂糖衣をまとって、ひし形に切られたお菓子を、
これで最後と決意しながら、もうひとつだけつまむとターニャに尋ねた。


「ロシアのお菓子よ。アレクサンドラスキー・トルトと言うの。
 外が真っ白で中が赤いところがきれいでしょ。」

「昔風だけど、おしゃれだわ。
 こっちの薄いクッキーにフルーツがのっているのも、おいしい!」

「チューリパンね。お花のカップよ。
 チューリップの花に、クリームと果物を入れるイメージなの。」

わあ・・・。ホントにかわいい。


お腹がいっぱいのはずなのに、どうしても
手と口が止まらない美鈴を見て真が笑った。


「美鈴さん、ロシア人の素質十分だね。」

「え~~?だめよ、ロシア語はわからないんです。
 アルファベットが違うから、アレルギー持っちゃってて。」

「そういう意味じゃない」


真はまた笑ったが、ターニャは真面目にうなずいて、


「慣れればすぐよ。美鈴さんならこなせるわ。」

「そうでしょうか。」

「ええ、やってみたらいいのに。お手伝いするわよ、お菓子付きで」

「きゃあ、どうしよう!」


手と口が止まらない女性二人に、暖炉の前の男ふたりは呆れ顔だ。

堂海はブランディ、真は美鈴に付き合って紅茶を飲んでいる。


「女ってのは、どうしてああ甘いものに目がないんだろう。」

「僕も好きですけどね。
 特にターニャのお菓子は、ときどきすごく食べたくなる。
 どこにも売ってないし。」

「いまどき、一年に一度しか食べられないものがあるなんて、
 いいじゃないか。」

「自分で作れば食べられるようになるかしら。」

「そうよ、名案ね」


美鈴がうきうきと声をあげ、ターニャが楽しそうに笑ったあと、
はっと椅子から立ち上がる。


「そうだわ!わたし、忘れるところだった。」

「何を?」

ちょっと待ってて!


ウインクして、ターニャが部屋から出て行ってしまうと急に静かになり、
しばらくは、暖炉でぱちぱちと薪のはぜる音だけになった。


「火は見てて飽きないな。」

「飽きないですね。」


傍らからみると、良く似た背中と首すじだった。
親子ってどうして、見えないところで似るのだろう。


「美鈴さん、これをあなたに渡したかったの。」


ターニャが堂海から手渡しさせようとすると、彼が手を振って断り、
結局、美鈴はターニャから受け取った。

黒いビロード張りの小箱で、かなり持ち重りがする。


「開けてみて・・・」


ターニャがそっとささやく。

恐る恐る箱を開けてみると、存在感のあるネックレースとブローチが
鈍い輝きを放っている。


「それは、この家の花嫁さんに伝えられるものなの。
 手に取ってみてよ。」


赤や白の小さな石をちりばめた長いネックレースは、
ずっしり重く、揺れるたびに手の中できらきらと輝く。

ブローチは、赤や青、乳白色の石をとりどりに並べたもので、
ごろりとした塊のように、強烈な存在感を放っていた。


「でも、これはここの娘であるターニャさんが・・・」

ううん、ちがうわ。


ターニャが首をふって微笑んだ。


「マコちゃん、見覚えない?」


横から箱の中身をのぞきこんでいた真が、
はっとした顔でターニャを見た。


「そう。見たことあるでしょう?」


真が立ち上がって、ピアノの上の写真群から一番奥にあるのを持って来た。

優美なブルーのドレスを着た真の母と、ダークスーツ姿の堂海が並んでいる。
首もとに、確かにくだんのネックレースが輝いていた。


「すごくお似合いの二人だったわ。
 しのぶはきれいで、いつも優しくて我慢強かった。
 わたしの憧れだったのよ。」


じっと写真を見つめるターニャの表情は、懐かし気で、
写っている女性は確かにとてもきれいだった。

柔らかく髪をあげ、控えめな微笑みをうかべた顔に恥じらいがあり、
傍らの男性が自慢そうにそれをながめている。

今の堂海もすてきだが、写真の男性は若さと自信に輝いていた。


「親戚の結婚式に招かれたときだ。
 油断していたら撮られてしまった。」


堂海が写真を見ずに付け加え、ターニャが顔をあげて美鈴を見ると


「ね?今度は美鈴さんが持つ番なのよ。」


そっと言われると美鈴の心も決まった。


「わかりました。絶対に大切にします。」

「そう言ってもらえてうれしいわ。
 でも、大切にするっていうのは、しまい込むことじゃないの。
 ときどきは出して身に付けてあげてね。」

はあ。


ターニャの言葉が重たい。

自分がこれをつけている姿をまるで想像できなかった。
これに合うドレスも持ってないし、それが似合うとも思えない。

真の母のような美人だったら・・・きっと。


「美鈴さんにも似合うよ。」


真が微笑んで言った。

そうかしら?


「うん、絶対に似合うと思う。」

「ありがとう。」


見つめ合うふたりを見て、ターニャが微笑んだ。


「よかったわ。これを渡せて。
 改めて婚約おめでとうを言わせて。」

「ありがとうございます。」


こんなにたくさんお料理やお菓子を作るの、大変だったでしょうに。
心がこもっていて、とてもおいしかった。

ふふふ。


「これからは、美鈴さんも一緒に作ってもらうわよ。」


ターニャがいたずらっぽく笑うと、堂海の腕にもたれた。


「ええ?でもわたし、凝ったお料理ってできなくて・・・」

「心をこめればできるわ。少しずつ教えてあげる。」


ターニャの言葉に美鈴も少しだけ、安心した。


そうよね、それなら、わたしにもいつかできるかな。

 

 

「泊まっていけばいいじゃないか。
 お前の部屋はそのままになってるし、
 前はクリスマスによく泊まって帰っただろう。」

「来年はそうするかもしれませんが、今夜は帰ります。
 ターニャ、おいしいディナーをありがとう。」

「どういたしまして。またすぐに二人で遊びに来てね。」

「ありがとうございます。」


コートのボタンをしっかり留めながら、美鈴が答えた。

真っ暗に沈んだ庭で、クリスマスツリーが青く赤く瞬いている。
木々を照らしているいくつもの光が、
このまま空に舞い上がっていきそうだ。


「またね。」


ターニャが美鈴をハグした。
美鈴もしっかりターニャのほっそりした体を抱きしめる。
ついで並んで立っている堂海と握手をした。


「おやすみなさい。」

「おやすみなさい。来てくれてありがとう。」


冷えた空気に磨かれて、降るような星空のもと、
真と腕を組んで、震えながら帰った。


「ターニャさんて・・・」


ごく自然に堂海によりそっていたきゃしゃな体を思い出し、
つづきを言おうとしたが、何と言っていいのかわからなくなった。


「僕の叔母さんみたいなものだ。
 いちど縁付いてアメリカに行ったんだが、
 結局またあの家に戻ってきた。」


とぎれた美鈴のことばに真が続けた。


「僕は・・・
 ターニャがあそこに帰って来てくれてうれしいよ。」


そうなのか、きっとそうなのだろう。

堂海とターニャ。
兄妹みたいな、おさななじみのようなふたり。
ターニャの視線は、一体いつごろから堂海に向けられていたのだろうか。

真の母がいない今、どんな形でもないにせよ寄り添って暮らし、
お互いの結びつきははっきりと見てとれる。

だが、それもまた真には少し複雑なのかもしれない。

美鈴はお土産にもらったお菓子と大事な小箱の入ったバッグを抱え直し、
空いた腕をそっと真にからめる。

二人の靴音が、クリスマスの冷たい舗道に響いた。

 

 


う・・・・ん。

強い腕に組み伏せられながら、美鈴があえいだ。

目を閉じていても、真の瞳がどう猛に光っているのが見える気がする。

激しく強引な真と、優しいがじわじわといたぶる真と。
二人いるとするならば、今夜の真は不安定な嵐のようだ。

扉を閉めた途端に襲ってきた。
あっというまにさらわれて、少し乱暴に剥かれる。

冷たいベッドに美鈴を投げ出してしまうと、
今度はやけにゆっくりと近づいてきた。

瞳と瞳を合わせる。

美鈴の中まで探り出そうと、金の瞳に飢えたような炎が見えて、
その熱さが美鈴の背筋を鋭く駆け抜けた。

視線にしばられたように、だんだんと後ろに下がって、
ベッドにあおむけになっても、なおも真は迫ってくる。

あごをつかまれ、とっくりと見つめられた。
美鈴の瞳を通し、体の奥の奥に火をつけるような視線。

そのまなざしに焼かれて、すでに美鈴のほうは息も絶え絶えだ。
それでも真は美鈴をじっと見つめ続けている。

ふっと顔がなごんだかと思うと、唇が重ねられた。
熱くて濡れていて、とてもみだらなキス。

肌と肌が触れ合うところから、電気のように欲望が伝わってくる。

唇を離すとまたじっと見つめられ、
金縛りにあったみたいに動けない。


「美鈴が欲しかった。」


言葉の熱さに美鈴の奥からずんとあふれてくるものがあり、
目もうるむのがわかった。


「でも・・・」


続けながら真は表情をゆるめて、にやりと唇をあげた。


「美鈴にも僕を欲しがってほしいな。」


大きな手が美鈴をつかんだ。
そっと顔がさがると胸のいただきをふくまれ、しゃぶられる。

思わず声がでて、体が反りかえるのにまるで止める気配がなく、
がっちりと美鈴をつかんだまま、容赦なくなぶる。


あ・・・あ、あ、ああ、あ。


たまらずに真の背中につかまる。すでに熱い。


「美鈴も僕が欲しい?」


声も出せないくらいなのに、イジワルにそんなことを聞く。
聞きながらも手と唇は休まない。

器用な指はとっくに美鈴を探って、望みを知っているくせに。


「どう?」

「欲しい、欲しい。あなたが欲しいわ。」


ようやく引きだした言葉に満足そうに笑みをうかべると、
美鈴をぐっとひきつけ、容赦なく一気に入ってくる


きゃあああ、ああ・・・。


たたまれて、抱え上げられて。
乗せられてずらされて、ひっくり返されては責められる。

真の飢えがやっと満たされた頃、
美鈴はなかば意識をなくして、汗ばんだ胸にぐったりと埋まっていた。

とろとろと眠りへさまよいだした頃に


「うれしいよ」

ん?

「美鈴がいてくれて、本当にうれしい。」


ようやく聞き取れたほどのかすかなつぶやき。

返事する声も出なくて、背中に回した手に少し力を込める。
応えるようにさらに回された腕の力が強くなった。


「愛してる」

「・・・・」

「愛してる、愛してる、愛してるよ、美鈴。」


ぎゅうっと自分を抱きしめる力の強さに、こめられた真の思いが切なかった。


「まことさん・・・」


声がしゃがれてしまったけど。

「わたしも愛してるよ。心から」


暗闇のなかで真の喉もとにそうっと口づける。
何度も、何度も・・・。


クリスマスから帰った夜は切なかったろうな。
毎年、複雑な心を抱えて眠っただろう真が愛しかった。

自分に代わって、ようやくおだやかな寝息を立てはじめた体をなでながら
美鈴はほっと息を吐く。


天国のおかあさん。
ずっと真さんと生きていきます。
どうかわたしたちをお守りください。

 

6 Comments

  1. いつも、楽しみに読んでいます。
    クリスマス後編待ってました~
    真の背景とその切ない思いがわかった美鈴は、彼が眠るまで寝付けなかったんだね~益々彼が愛しくなるね。
    真の不思議な力と美鈴の素直な性格、今後のふたりを楽しみに見守っていきたいです。

  2. 千草さん忙しい時期にありがとう。
    今年最後の日になってしまいました。
    後編がクリスマスに間に合わず、年末になっちゃいましたが
    読んでいただけて良かったです。
    >真の背景とその切ない思いがわかった美鈴は、
    彼が眠るまで寝付けなかったんだね
    お父さんもターニャも好き。
    でも亡くなったお母さんの思いも知ってる。
    みんなが幸せになることはできないと
    わかってはいるけれど・・。
    でも仕方ない。
    生きている人が幸せになるのが一番ですもの。
    美鈴を得て、真さんも落ち着くかな。
    パラパラのアップにお付き合いいただいて、ありがとうございました。
    来年もまたよろしくお願いいたします。

  3. Annaさん、UPありがとうございます。
    気づかないでいるうちの年が明けてしまいました。
    明けましておめでとうございます^^
    田山さんて、見た目は“彼”だから穏やかで優しくて品があって・・・
    って思っちゃうけど(実際そんな感じの設定ですよね)実はそれだけじゃなくて
    すごく激しく荒々しいところもあったりするんですよね。
    ほぼ、美鈴さんと寝室にいる時限定って感じではありますが・・・。
    眼、光っちゃうし・・・読心術まであるみたいだし・・・。
    でも美鈴さんも、結構 情熱的な田山さんが好き❤みたいだし
    幸せそうなので、どうでもいいっちゃいいんですけどね^_^;
    こんな田山さんを見ながら、どうしても妄想しちゃうわけですよ、“彼”を・・・。
    “彼”はどんなんかなぁ・・・なんて、ね。(#^.^#)
    今年もたくさんお話書いてくださいね。
    Annaさんにいいこといっぱいありましように!

  4. ちのっちちゃん、いらっしゃ~い!
    あけましておめでとう。
    今年もよろしくお願いしますです。
    >気づかないでいるうちの年が明けてしまいました。
    いやもう、クリスマスの仕舞い話を年末にあげちまっちゃあ・・
    タイミング合わすのが難しい。
    自分の雑事に追われちゃって。
    >田山さんて、見た目は“彼”だから穏やかで優しくて品があって・・・
    って思っちゃうけど(実際そんな感じの設定ですよね)実はそれだけじゃなくて
    すごく激しく荒々しいところもあったりするんですよね。
    うふん、眉目秀麗、品行方正、思いやりがあって、
    親孝行で努力家で・・という何拍子もそろった方が万一いたとしても
    やっぱりそれだけじゃないと思うんですよねえ。
    苦しい、悲しい、くやしい思いもあるんじゃないかと。
    だからきっと穏やかでお行儀のいい”彼”だって、
    ギラギラしたところもあるんではないかなあ・・・と
    わたしも妄想しちゃっております。ぐふふ。
    妄想はタダですものね。
    >今年もたくさんお話書いてくださいね。
    Annaさんにいいこといっぱいありましように!
    いつも応援ありがとうございます。
    ちのっちちゃんにも沢山幸いが降りますように。

  5. Annaさん、毎度遅ればせのレスですみません^^;
    今年もどうぞ宜しくお願いいたします~^^
    年末にビューッと読み逃げし、やっとゆっくり読みに来れました。
    三拍子もヨン拍子もそろった いい男 の真さん!
    でも抱えた寂しさをずっと隠して生きてきたのですね。
    お父さんも好き、ターニャさんも好き、
    でもお母さんはもっと好きでその寂しさや辛さを傍で見ていたから
    余計に辛かったろうね~~
    3人ともいい人なのに、共に生きることは出来なかった・・・
    複雑な思いのクリスマスが、美鈴さんを得て心を満たせる
    クリスマスになって良かった~!
    感情をあまり外に出さない真さん(彼も?)の秘めた激しさって
    魅力的です~~!「愛してる」とつぶやく真さんの切なさが
    胸にグッと迫りますよ~~^^
    今年もわがまま読者の為にどうぞいっぱい書いてくださいませね^^

  6. hiro305さん、
    年末年始バタバタしていて、お返事が後回しになったことをお詫びします。
    昨年はどうもごひいきにありがとうございます。
    今年もよろしくお願いいたしますって、だいぶ明けてしまってますけど。
    >お父さんも好き、ターニャさんも好き、
    >でもお母さんはもっと好きでその寂しさや辛さを傍で見ていたから
    >余計に辛かったろうね~~
    >3人ともいい人なのに、共に生きることは出来なかった・・・
    本当にね。
    でもお母さんは自分の寂しさや辛さを、誰かのせいにして恨まなかった。
    だから息子もおとうさんやターニャに会いに行ける。
    だってこっちも家族だものね。
    共に生きるのが、みんなの幸せにならなかったのが残念。
    >感情をあまり外に出さない真さん(彼も?)の秘めた激しさって
    魅力的です~~!「愛してる」とつぶやく真さんの切なさが
    胸にグッと迫りますよ~~^^
    何よりのお言葉です。
    いや、本当に読んでいただいて感謝しております。
    今年も戯れ文によければおつきあいください。

Leave a Reply

Your email address will not be published.


*