05 星祭り – 約束の夜 – 5話

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圭吾のメール

 

「ラマダーンの時期に入っている。

 イスラムの国の労働意欲はがくんと落ちて、その代わり、

 日が沈んでからは、いつもより一層人通りが多い。

 親戚や友人宅を訪問して、一緒に食卓を囲んでいるようだ。


 昼間、半分眠っているような現地スタッフが

 夕方になるにつれ、元気になる。

 禁欲期間というより、お祭りみたいだ。」

 

 

千織のメール


「元気そうで安心しました。

 わたしは毎日仕事をして、毎日、誰かのためにお祈りしています。


 母が元気でいられますように。

 圭吾のお母さんも元気でありますように。


 圭吾が怪我もしないで、新しい女の人とも会わずに

 わたしを忘れずに居てくれますように。」

 

 

圭吾のメール


「ビールが一番恋しいと言うんじゃ、僕の良識を疑う?

 この国のマーケットには、まあまあ物がそろっていると思うけど、

 豚肉とビールはないな。

 

 豚肉の代わり(?)かどうか、ラクダ肉はある。

 おいしいか、と聞かれても答えようがないけど・・・。」

 

 

 

千織のメール

 

「わたしはビールよりも薄いのだとよくわかりました。

 ラクダ肉サンドイッチとノンアルコールビールで

 乾杯でもしてください。」

 

 


圭吾のメール


「千織が恋しくないわけじゃない。

 渇望を通り越して、幻影が見えてくるくらいだ。


 砂漠にいると何だか喉が渇く。

 千織のことを考えると、心が潤う気がする。

 ただ、ビールも飲みたいだけ。

 怒らないでくれよ。」

 

 


千織のメール


「母の具合が少し悪くて滅入っています。

 わたしがどんなに心配したところで、

 良くなるわけじゃないのだけど。


 家のことを何度にも分けて、

 ちょっとずつやってくれているんだけど、

 そろそろ限界かも。


 わたしは元気で、怒ってなんかいません。」

 

 


圭吾のメール


「仕事に追われていて、

 この国の文化を理解する時間が見つけられない。

 砂漠の上に広がる星空は豪華だが、

 この国の星の伝説はどうなのだろう。

 

 以前、ベドウィン出身の運転手が星を指差して

 何か言っていたのだが、残念ながら言葉が通じない。

 

 こんな遠くに居ても、結局、日本の天の川の伝説を重ねながら

 空を見ている。」

 

 


千織のメール


「七夕の伝説は考えると、とても悲しい。

 わたしの名前は7月生まれだからと、

 織姫にちなんで付けられたの。

 

 だから、こんな遠距離恋愛の運命を得てしまったのかな。

 毎年出会って、毎年別れるなんて、さぞつらいでしょうに。」

 

 


圭吾のメール


「天の世界にも悲しみがあり、別れがあり、再会がある。

 でも僕たちは今度地上で手を取り合ったら、

 2度と別れない。

 

 天の川を降りて、一緒に地上を歩こう。

 

 地上の悲しみや苦しみも重いけど、

 それを理解し、わかり合える人がいれば

 きっと背負っていくことができる。

 

 僕の織姫に会えるのを心待ちにしている。」

 

 

 

千織は、圭吾のメールを何度も何度も読み返した。

 

不安は沢山あるけれど、

もうお互いなしではいられないのだから、

どんなことでもできるはず。

 

その日にむけて、少しずつ準備をして行かなくては。

 

 

 

 

空の港に吹き寄せる風にのり、

沢山の船が港を目指して飛んでくる。

次々と空気を切り裂く音がして、銀の船の形が大きくなる。

 

わたしの待つ船の影を空に探して、

ただ佇み、待っている。

 

やがて、うす桃色から群青色へと変わり始めた大空の彼方から、

愛しい人を乗せた船がやってくる。


きいいいん、と音をさせて、港にもやわれる銀の船。

船から降りる、愛しい影法師を思わぬ日はなかった。

 


やがて、ガラスの扉の向こうから、

1年分の知らない時間をまとったあなたが姿を見せる。

 

また日に焼けた?

少しやせたかしら・・・。

あなたのために髪を伸ばしたのよ。

 

わたしを見つけた笑顔は、変わっていない・・・。

晴れた日のお日様のように明るくて、

夏の風みたいに、さわやかで・・・。


もう、視界がぼやけてくる。

ちゃんとお迎えをすると誓ったのに、こんなことでどうしよう・・・。

 

「千織・・・」

「圭吾。おかえりなさい。」

「ああ、やっとまた会えたね・・・」

「ほんとに・・・」

 

二人の影法師はもうひとつだ。


懐かしい声を聞いただけで、涙がこぼれ出して、

圭吾のシャツを濡らす。

 

「行こう・・・」

 

この手を二度と離さないですむように。


めぐり合っては、また引き裂かれる定めの天の恋人たちよ。

同じ日にめぐり合えた僕たちには、

どうか、星の祝福を与えてほしい。

 

二人の手はしっかりつながれたままだ。


長い時間と空間を経て、再び結ばれた手を決して離さずに、

星の降る大地の上をまた歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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