05 星が出会う日/ 番外編 5

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「百合、何してる?早くこっちへ来いよ。」

 

百合は着ていたジャケットを脱ぐと、慣れた手つきで、

僕と自分の上着をクロークに掛けた。

 

「だって、お店から持って来たお刺身とか、お肉とか、

 冷蔵庫にしまっておかなくちゃ。

 これ、板さんのご自慢なのよ、

 塊のままあぶって、蒸し焼きにしたのを、

 すこうしずつ削いで切るとおいしいんですって。」

 

どうせまた、お昼食べてないんでしょう、と言いながら、

店から持ってきたものを、

僕のマンションの冷蔵庫に仕舞い始める。


いつもは、きりりと結い上げている髪を下ろし、

肩へとゆるく流していた。


僕は、百合の髪がさらさらと揺れるのを見るのが好きだ。

 

「だって、またすぐ、お店に帰るんだろう?

 それとも、お店が仕舞ったあと、もう一度ここに来る?

 よければ迎えに行くけど・・・」

 

「でも、お父さんが出してくれるかどうか、わからないわ。

 だんだん、ブツブツ皮肉を言うようになってきたのよ。

『俺はまだ嫁に出した覚えはない』とかって。

 お店の人にだって、見られちゃうし・・・

 

 あ!」

 

僕はしびれを切らしてキッチンに入り込むと、

きちょうめんに持って来たものの整理をしている、

百合の手をつかんだ。

 

「もう、終わりだ・・・いい?」

 

僕が強く言うと、百合はいつも抵抗できないらしい。

 

「ええ・・・じゃ、この桃を仕舞ったら。」

 

「桃なんて冷蔵庫にしまうと、まずくなるだろ。

 そこらに置いとけばいいんだ。」

 

百合の手にあった桃を取り上げると、

キッチンカウンターに置いた。


白いカウンターに、丸く毛羽立った桃が

二つ、ころんと丸まる。


百合が空になった自分の両手を一瞬眺めると、

すかさず僕が、空いた手を引っ張って抱き寄せる。


百合の白い腕は袖なしのワンピ−スから、

むき出しになっている。

 

 

 

料亭の客は男性が多いので、若女将の百合は、

努めて明るい色を着るようにしているらしい。


今日はサックスブルーのスーツを着て接客していたのを

昼時の客を送り出してから、ちょっと買い物に、と、

お店を抜け出してきてくれた。


どこへ行くか、店の者たちに見透かされている、と

百合はきまり悪そうだが、

こうでもしないと二人きりの時間がひねり出せない。


婚約者の百合に会えるのは、

昼時の客が引けて、夜の客が来るまでの昼下がりと、

夜の客を送ってから・・・。


僕は自営で仕事をしているから、

こんな時間帯でもなんとか会えるものの、

普通の会社員が相手なら、

百合は誰ともデートできなかったに違いない。

 

「今日は事務所に行かないの?」


「行かない・・・ここで仕事してる。」

 

抱きしめた百合の髪を撫でながら、答えた。


僕の指は百合の長い髪をたどって、

首すじにまで入り込む。

 

「便利なお仕事ね・・・どこでもできるなんて」


「どこでもじゃない。客と会う時は、ちゃんと事務所で会うよ。」

 

僕の指は、首すじをさらに下へたどって、

百合のワンピースから背中の皮膚へと潜り込んで行く。


ちりちりしたような興奮を感じている癖に、

百合はまだ抵抗する。

 

「でも、昨日も事務所に行ってないんじゃない?」


ワンピースのファスナーがちりっと開いてぱっくり割れると、

真っ白な背中があらわになった。

 

あ・・・!

 

声がこぼれかける唇を、

たちまち、僕の唇がふさぐ。


ひとたび、キスを受けると、百合はどんな抵抗もできなくなる。


目を閉じて、ひたすら、僕の唇を受けるばかり。


唇の上を2、3度動き、こすり、ついばむと、

滑らかに舌を入り込ませて、百合の中をかき回す。

百合の体のどこか奥のほうに火が付くのがわかる。

気がつくと、百合の腕も激しく僕の首すじにからみついているから。

 

やっと唇が離れた時、百合の顔は紅潮し、

瞳は大きくうるんでいた。


可憐な百合。

けなげで、がんばり屋の百合から、官能的な恋人へ・・・、

たちまち、スイッチが切り替わる。


この瞬間の百合の表情が、たまらなく僕は好きだ。


欲しいと言う気持ちを瞳にこめ、

じっと見つめると、百合の瞳が揺れて、

柔らかい唇が、誘うようにほんの少し開く。


ふっくらと赤く濡れた唇は、

僕の理性を粉々にしてしまう。

 

もう一度キスをしながら、肩からワンピースをはらい落とす。


背中をさぐって、ホックをひねり、

うしろから手を入れて、ふくらみを探る。


うすいブルーの下着も脱がせてしまい、

なめらかな百合だけにして、白いシーツの上に押し倒す。


生まれたままの百合が、恥じらってためらうような、

待っているような表情で、僕を見上げる視線。


それをあびた途端、頭の後ろがしびれたようになって、

少々乱暴に、百合をベッドに押さえつけると、

あとは、僕にできる限りの優しさで、

百合の肩から胸元へと唇を押し当てて行く。


百合には見えないだろうが、

細いのどや真っ白な胸元へ、大きな刷毛でさっと掃いたように、

紅が広がっていくのを見ると、

百合の肌に自分をこすりつけ、よじらせ、

全身で確かめることを止められない。


ゆっくり、すこしずつ・・・

なるべく無理をさせないように。


そうは思っているが、

触れる指先に、舌に、敏感に反応して、

時おり、大胆とも言える声が漏れるようになった。


百合のきれいな眉が、

苦しげに寄せられた表情を見ると、

シーツを握りしめた指先をひきはがして、

もっと声をあげさせてみたい、と

ついつい、強く責めてしまう。


百合はきゃしゃな体をエビのように折り曲げて、

僕の全体重を受け止めている。

突き上げるたびに、百合のあごががくんと揺れ、

唇の奥で、赤い舌が揺れるのが見える。


もっと百合、もっと・・・。


あ、もう、許して。


まだダメだ。まだ許さない。僕を見るんだ。

 

百合の半眼がかすかに僕に向けられるが、

焦点が合わずに、ゆらめいている。

 

あ、あ、あ、あ、あ・・・・。

 

百合の唇が半開きになり、両手がさまようように空中にあがると、

百合の中がびくびくと震えて、

何度も何度も痙攣するように締めつけてくる。

 

きゃあっ、あ、ああっ!

 

大きく白い喉をそらし、髪を振り乱すと、

僕の下で苦しげに体をくねらせた。

 

 

 

 

百合が初めて僕の部屋に来たのは、

ほんの数週間前だ。


例によって珍しそうに、

無機質なマンションの部屋をあちこちと眺めていたが、

棚に収められた、ラグビー部の集合写真を見つけると、

百合の視線が止まった。

 

「若いわ・・・。こんなに可愛い。

 それにはちきれそう・・・」


「もう、おじさんだって言うのか?」


「そうじゃないけど、ジヌさんってラグビーやってる時と、

 ふだんと感じが全然違ったから、前から不思議だったの。」


「違うってどういう風に?」

 

聞かれると百合は困ったように、微笑んだ。

 

「う〜ん、ふだんはすごく優しくて、ちょっと無口で、

 少しずつ、言葉を選ぶみたいなのに、

 フィールドだと大声で吼えてるんだもの。」

 

君のお兄さんは陽気で、よくしゃべり、

みんなのリーダーだったよ。

 

まだ写真を眺めている百合を見て、不思議な感慨に打たれる。


あいつはもういないのに、百合は僕のところに来てくれた。


あいつがいるうちは、決して二人で会うことは無かったのに、

居なくなって初めて、二人きりで会うようになった。


好きになってはいけないなどと考えたことはない。

とっくに好きだった。可愛かった。


百合が僕らの傍で、楽しそうに笑っている顔見たさに、

あの家に通っていたのを、あいつだって知らないはずはない。


あいつがいなくなってからの百合は、

押しつぶされそうで見ていられなかった。


自分の悲しみを抑えたまま、母親の看護と、慣れない店の仕事で

少しずつ、無表情になっていく百合を見るのが辛くて、

口実を作っては店から連れ出した。


それは、今も変わらないかな・・・。

 

 

「百合・・・」

 

愛してる、と言いかけてためらい、

代わりに百合のこめかみに貼り付いた髪をよけて、

愛らしくつぼんだ形の耳たぶに、ひとつキスをする。

 

「あ・・・」

 

百合はかならず、小さな声を上げる。


その声が聞きたくて、それに、

百合がそっとしのばせた香水のラストノートが

肌の熱が高まるにしたがって、一瞬強く香る。


その香りが嗅ぎたくて・・・。

 

「手をかして・・・」

 

百合の手首の内側の、青い静脈が走るところ。

そこにも、百合の香りがほんの少しふくませてある。


僕がその青い静脈に口づけて、

そのまま、手首の先のほうへと唇をすべらせると、

百合の体が震えるのもわかる。

 

僕はいまだに、愛の言葉ひとつ素直に言えない。

 

「あとどれくらいしたら、一緒に暮らせる?」

 

「えっと、もう八月になったから・・・

 ふた月ちょっと・・・」

 

百合は少し恥ずかしそうに答える。

わかり切っている計算を、二人で指を折っては待ちわびる。


別々にではなく、一緒に待てる幸せ。


百合は10月に僕の花嫁になる。


そしたら、店から帰った百合は、朝までずっと僕の腕の中だ。

 

 

 

 

 

2 Comments

  1. まあ、うれし。こんな甘い2人のその後が読めるなんて!!!
    ジヌや、仕事はどうした?仕事は?
    ま、あと2ヶ月、仕事より色事(?)でもおばさんは許そう。その気持ちはわからんでもないから。
    でもね、愛は言葉で伝えることも大事よ、大事!

  2. mamaさん、ありがと〜!
    これね、ある時思いついて書いておいたんだけど、
    1人称で書くか、3人称にするかで迷って、
    ほっぽっといたのを、見つけて校正しました。
    ジヌって優しいけど、亭主関白。
    意志が強いけど、他の人のペースに合わせるのが嫌い。
    自営には向いた性質ですが、亭主となるとちょっと気難しいところも。
    普段はワーカホリックでも、婚約期間中はこれ、この通り。
    >仕事より色事(?)
    ふふふ、そ〜なのでえす。
    でもね、実はとっても幸せなんです。

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