02 愛しのセリ 2

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ぴぴぴ・・・と携帯の音がする。

 

「甲斐くん?」

「ああ、セリ・・・」

 

あんまり思い詰めていたから、ほんとに電話があったら、

なんだかバカみたいな声を出してしまった。

 

「どうしたの?変な声だね。」


「そうかな。別に普通だよ。どうしてた?

 しばらく連絡くれなかったね。」


「うん、ごめんね。母親がインフルエンザになっちゃって、

 家のこと色々、手伝ってたの。」

 

何だ、そうなのか。

胸の中にぐっとつまっていた塊が、

ほどけて消えて行くのがわかる。

 

「それでね、甲斐くん。

 急なんだけど、今日、空いてる?」

 

あんまりうれしくて、胸がき〜んと痛くなった。

ほんとだ。

こんな言葉ひとつで痛みを感じられるなんて知らなかった。

 

「ああ、大丈夫だよ。今日はバイトないから。」


「じゃあね、2時頃、どうかな。

 どうしても見ておきたい展覧会がひとつあるんだ。」

 

何だってかまわない。

どうせ俺は、その間セリしか見てないんだから。

 

「いいよ。」

「良かった。ダメだったらどうしようかと思った。

 じゃ、後でね。」

 

 


セリが連れていってくれた展覧会はかなり面白かった。

ハイテクを使って、原始的なおもちゃを作っているみたいな感じだ。


画面上で触れる感覚を、実際に指に伝わるようにする。

砂をかき分けるとスクリーンが現れ、

指でぐりぐりしていると、原始生物が生まれる。


他に、あちこちにゲームの端末が置いてあって、

それを使ったエンタメ作品、新開発ゲームみたいなのも色々あって、

セリと一緒にも関わらず、俺は一瞬のめり込んで、

ついセリを忘れてしまった。


初めてのことだ。

 

セリは怒っているように見えなかった。


「甲斐くんがのめり込んでるの、初めて見たよ。

 めずらしいね。」


セリは反省している俺を見ながら、くすくす笑った。


「ごめん・・・」


いいのよ。


セリは続けた。


「わたしと行った映画とか展覧会、

 甲斐くんには興味なかったんじゃないかって、

 いっつも後から悪かったな、って思ってたの。」


びっくりした。


「どうして?」


問い返すと、セリが困ったような顔をした。

 

「だって・・。

 あまり面白そうな顔をしてないし、

 見終わってすぐスタスタ行っちゃうし・・・・。

 つまんないのかなって。」

 

そんなことを考えていたのか。


セリの手首をそっとつかんで、こっちを向かせる。

会場は混み合っていて、俺らのことを気にかけている奴なんか、

ひとりもいない。

 

「ちがうよ。

 セリがすごく気になってたから。

 俺、何を見たか、あんまり覚えてないくらいなんだ。」

 

そうなの・・・。


セリは顔を赤くした。

まるで、俺がそう言うのがうれしいみたいに。

 

「いつもセリを見てた。

 展示会や映画じゃなしに。

 だから上の空だったんだ。」

 

気を使わせちゃって、ごめん。

俺はそう言って、セリの肩を抱き寄せた。


セリは俺が吸い込まれてしまいそうな、黒い目をじっとこっちに向けると、

その回りの筋肉がほどけて、すごくかわいい笑顔になった。


まずい。

今、この場でキスしたい位だ。

 

 

セリの切ないみたいな笑顔を見てからは、

会場はいつもと同じように、ただの景色になった。


インタラクティブもコミックもゲームも、今はどうでもいい。


セリと手をつないでいる場所だけが色づき、

息をしているような気がした。


最高だ。

 

 

 

会場を出てしばらく二人で歩いた。

 

「お母さんの具合、どうなの?」

「う〜ん、まだ起き上がるとふらふらするって言ってた。」

「そうか。じゃ、もう帰らないといけないのかな。」

 

そんなこと、絶対に嫌だったが聞かずにはおけない。

だったら、彼女の家まで送って行こうと思っていた。

 

「う〜〜ん・・・」

 

セリが困ったような顔をした。

俺はすごく気落ちして、セリの顔をちゃんと見られず、

自分の靴の先を見てた。


セリは今日も茶色のブーツだ。

 

「今日は・・・いいよ。」


え?


「ひさびさに甲斐くんとせっかく会えたから、今日は一緒にいる。」


恥ずかしそうなセリの唇が、そんな風に動いて、

困ったみたいに微笑んだ。


やった!

気がついたら、セリの肩をぎゅっと抱き寄せていた。


ほんとは当たりかまわず、抱きしめたいくらいだったけど。

 

 


その後、無国籍カフェ、みたいなところに入って、

セリはアジア風サラダプレート、俺はスリランカ風ドライカレーを食った。


セリは白くて柔らかそうなVネックのニットに、

デニムと紫が重なったスカートをはいていた。


セリのきれいなのど元に、俺が贈ったスミレ色の石が散らばっている。


細い華奢な鎖と、控えめな紫が、

白い鎖骨の上ににのっかってるのを見て、

俺はとてもうれしかった。

 

レジのそばに、バレンタインチョコがずらっと

わざとらしく並べられている。


俺は見ないフリをしたが、セリは、熱心に見入っている。

それを見て、俺は声をかけた。

 

「セリ。好きなお茶を選べよ」


「え?」

 

チョコマフィンや、ハート型のブラウニーの隣に、

色々なお茶が並んでいる。

紅茶、フレーバーティ、ハーブティ、

緑茶や中国茶まで置いてあった。


セリはお茶が好きだ。

時々、俺が聞いたこともないようなお茶を頼んだりしている。

 

「ひとつ、買ってこう。」


セリはうなずくと、真剣にお茶の棚に向かい合う。


「甲斐くんも飲む?」


俺は返事に困った。


正直に言うと、俺は妙な香りのついたお茶が苦手だった。

先日、セリにちょこっともらったハーブティは、

雑草みたいな匂いがした。

 

「ん。いいよ。」


何とかそういうと、セリがにっこり笑って、一つ選んだ。


「これにする」


俺はよく見ないまま、それをレジに出した。

後で、どんな香りの奴が出てくるか、お楽しみだ。

 

 


俺の部屋に着くと、コートも脱がないうちから、

思いっきり抱きしめた。


すごく会いたかったんだ。


会って、抱きしめて、キスをして・・・。

そんな風に過ごしたかった。


だから、いつまでもセリを離せない。


あったかい首すじに俺の冷たい頬をすりつけて、匂いをかぐ。

セリがくすぐったがって、首をすくめるのを、

強引にさえぎって、くびの後ろにキスをした。


それから、冷たくなった頬を手ではさんで、顔を近づけると、

セリの瞳が大きくなり、ふるふるっと盛り上がって揺らいだのが見えた。

 

え、どうして?


「だって、すごく・・会いたかったの。」

 

その声が耳に響いたとたん、俺は感動してセリを抱きしめ、

夢中でセリにキスをした。


何度も何度もキスをして、セリの唇か、俺の唇かわからないくらい、

混じり合うと、セリののどにもキスをした。


その下のネックレースが揺れるあたりの肌にも。


それから、俺の手をセリのコートの中に入れて、脱がせる。

自分のダウンも脱ぎ捨てる。


セリの体がもっと俺にくっつくようになった。


もっと感じたい。

もっとセリの温かさをつかみ取りたい。


気がつくと、ニットの下に手を入れて、いつも俺を苦しくさせる、

重たくて、柔らかい胸に直接手を触れていた。


柔らかくて、すごく甘い匂いがする。

セリの息があえいでいるのもわかった。


その息を鼻先に感じると、どうにも我慢できなくなって、

セリの柔らかい胸に直接、頬をすりつけて何度もほおずりした。


俺の邪魔をしているブラを引き下ろして、

鼻先を寄せると、セリが小さなうめき声を立てる。


思い切って、セーターを引っ張って脱がせ、

ついでにブラのホックも外してしまう。


白いミルクのようなおっぱいが揺れて、セリが隠そうとするのを

手で押しのけて、そうっと舐めた。


うっすらと先が赤く染まっていて、こんなきれいなものは見たことがない。

 

「セリ。すごくきれいだ。

 お願いだから、隠さないでくれ。」

 

俺が頼むと、セリの手が止まって俺の背中に降りた。

 

俺はセリをカーペットに押し倒して、左手でゆれる胸をつかみ、

キスをして、吸い立てて、舐めて、

頭がくらくらするほど、柔らかい肉を味わった。


さっき真っ白だった胸全体に、赤い血の色が透けて、

ほんのり赤くなっている。


それから、セリの首の下に腕を差し込んで、

少し頭を起こす。

セリの顔も赤くなって、唇がいつもより腫れ、ぽってりしている。


なにか言いそうになったのを聞かずに、ふさいだ。


これ以上、許可なんか求めるつもりはなかった。


もっと直接、セリを感じたい。

 

 

キスをしたまま、セリのスカートをあちこち探って、

ファスナーを見つけ、引き下ろそうとするのを

セリの手が邪魔する。


何度もセリの手をどけているうちに、ついにファスナーが降りて、

セリの白い腰があらわれ、

俺は手をかけて、スカートもタイツも下着も一緒に引きおろそうとした。

 

「待って・・・」

 

一瞬、手をとめて、セリの顔をみつめた。

10秒くらい見つめて、できるだけ優しくキスをする。


裸の肩をなで、背中へと手をはわせ、

一本一本、背骨をたどるようにする。


あとで、唇でたどってみたい。

女の子の背中って大好きだ。特にセリの背中なら・・。


両手が腰まで降りて来た時、もういちど、

セリのスカートをおろそうと力を加えると、

今度は手で止めずに、膝を立てて、脱ぐのを助けてくれた。


セリの全身が現れた。


想像していたより、ずっとずっときれいだ。


細い肩からすんなりと腕がのびて、

信じられないほど丸くて豊かな胸を両側から押している。


白いお腹からなだらかにつづいている曲線は、

なめらかで、女らしくて、息が止まりそうにきれいだ。

指でそっと触れると、かすかにセリの体が震える。

 

「セリ、大好きだ。

 俺はどうしてもセリが欲しい。」

 

セリを裸の肩を抱きしめると、セリが小さくうなずいてくれた。

 

 

 


いくらだってキスしてられる。

どこにでもキスしたい。


こんななめらかで、温かいものが俺のベッドにいるなんて、嘘みたいだ。

セリの体をぴったり俺にくっつけて、てのひらを組み合わせたまま、

肩から首すじにずうっとキスをしていく。


うつぶせた、セリのうなじの生えぎわ、折れそうに細くて、

人間の体の一部と思えないくらいだ。


服を着ているセリと、着ていないセリは、やっぱり全然ちがう。


着ているセリも最高だと思っていたけど、

裸のセリがこんなに熱くて、きれいだとは思っていなかった。

 


セリはまだ、きゅっと目を閉じている。

まつ毛の影が濃く頬の上に落ちて、生きた人形みたい。


どうしても触れずにいられない。

ああ、セリ。どうしよう・・・。

 

 

「甲斐くん・・」


え?


「渡すものがあるの。」


ねえ、セリ。そろそろ名前で呼んでくれよ。


「名前?え〜と、あれ、何だったっけ?」


セリがわざととぼけたように笑う。

 

「こいつ!知らないなんて言ったら、首を締めるぞ。」


セリを片手で抱きしめたまま、

もう一方の手で喉に触れて、くすぐってやる。

 

「りゅうと。

 そろそろ起きて、お茶にしない?」

 

彼女が俺を呼んだ声にしびれて、またぎゅっと抱きしめ直し、

額をセリの額に押し当てて、ぐりぐりこする。

 

まだ、イヤだ・・・。


「起きないと、あげないよ。りゅうと・・・」


う〜ん。それもイヤだ。

 

うふふふ・・・。

セリの笑い声を、直接、すぐそばの喉の響きから聞く。


このまま、永遠に離したくないのに。

 

 


さんざんごねて、セリが俺のシャツを着る、という条件で、

やっとベッドから起き上がった。


赤黒チェックのでかいネルシャツ。

そんなの素肌に着て、ちくちくしない?


「大丈夫よ。」


セリは、俺のスウェットパンツまでだぶだぶに穿いて、

さっさとケトルを火にかけている。


俺とベッドにいるより、お茶が飲みたいのかな。

つい、ぐずぐずしてしまう。

 

 


セリが白いポットを傾けて、マグカップにお茶をつぐ。

たちのぼった香りは・・これは、何だろう?

 

「飲んでみて・・・」


恐る恐る、カップに口を付ける。


気持ちのいい紅茶の香り。

ほんのり・・・みかんみたいな香りがする?

 

「りゅうと、香りのきついの嫌いでしょ?

 だから、普通のダージリンだよ。

 それにちょっとだけ残ってたオレンジのお茶を混ぜたの。」

 

ふうん。


セリの顔を見る。

黒目がきらきらして、頬がほんのり赤くて、いつもよりもっと可愛い。


もしかして、少しくらい俺のせい?

 

「やあだ、りゅうとってうぬぼれてる。」


セリがお茶を飲みながら、くすくす笑う。

 

「これを渡しに来たんだよ。」


セリが、うす紫に細い焦げ茶のリボンをかけた箱を渡してくれた。


ありがとう。

セリってほんと、紫が好きなんだな。

 

 

リボンの結び目がきつくて、なかなか解けなかったが、

やっと箱が開いた。


丸くてトゲトゲしたチョコレート、

白いチョコレート、ココアをまぶした四角いチョコ、

3種類が並んでいる。

 

ココアのやつをひとつ、つまんで食ってみる。

かすかに、キャラメルの味がした。

 

「うまい・・。これ、どうしたの?」


「わたしが作ったのよ。お母さんの看病しながら・・。

 キッチンで何度も失敗したけど、沢山、できちゃった。

 これが一番、きれいにできた奴なんだよ。」


ふうん。

まるで売ってるのみたいだ。


「どのくらい、作ったの?」


う〜〜ん・・・。


セリが笑い出した。


「けっこう沢山。途中で材料を買い足しに行ったくらい。」


へえ。


「誰か他の奴にも、あげるの?」


「うん。お父さんと、バイト先の店長と、

 バイト先で一緒の子にあげようかな・・と」


俺の顔がずんずん、不機嫌になっていくのを見て、

セリが言葉を止めた。

 

「ダメ?」


すごく可愛い顔で笑って見せるけど、ごまかされないぞ。

 

「お父さんだけだ・・・」


ん〜もう、店長にはいろいろお世話になってるのに。


色々お世話って何だよ。そんなオヤジにつきあわなくっていいんだ。

 

もうひとつ、黒いトゲトゲのチョコを口に入れる。


いかにもチョコらしい味に、かすかに洋酒の香りがする。


「これ、すごくうまいよ。」


ほんと?


セリがうれしそうに、俺の肩にあごをのせる。

先に背中を捕まえて動けなくすると、そのままキスした。

 

「チョコの味がしたよ。」


セリが頬をすりつけながら、ささやく。


うん、ありがとう、セリ。


「喜んでくれてうれしいわ」


俺のために作ってくれたんだよね?


「そうよ。」


そう言うくせに、ふふふふ・・と笑うから、なんだか怪しい気もするけど、

でも、すっげえうれしい。

 


「チョコもだけど、その気持ちがうれしい。」


きゅっと抱きしめる。

セリの頬がまた赤くなった。

 

「りゅうとのことが・・好きだから。」

 

ああ、最高だ。セリ。

お前をちゃんとここから帰せるか、自信がないよ。

 

キスをしながら、またゆっくりとカーペットに倒れて行く。

 

「りゅうと・・・?」

 

セリの瞳が少し不安そうに揺れているが、もう止められない。

 

「ダメだ、セリ。

 もう一回、チョコみたいに食べてやる・・・」

 

 

 

 

 

 

<終わり>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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